2020年度中條2年セミナー
「2020年度 東京都議会議員の政治的態度と行動調査」分析結果
学生論文
- 「2020年度東京都議会議員の動物殺処分への問題意識とその影響、問題意識を左右する要因について」
2016年東京都知事選挙における小池百合子候補の公約の1つに「殺処分ゼロ」があった。2018年度に東京都はその目標を達成しているが、東京都における「殺処分」の定義は国の定義とは異なり、「動物福祉的観点から殺処分を行ったもの」「引き取り・収容後に死亡した」ケースを「殺処分」に入れていない。本稿はこの指摘から始め、都議会議員の動物保護政策への意識とその背景を明らかにすることを試みる。各議員における政策優先順位、専門分野などが動物保護や殺処分への態度に影響すると仮説をたてて分析した結果、財政・行政改革を専門分野とするもしくは高い優先順位を与える議員は、店頭での生体販売を継続する必要があると認識する傾向にあることが明らかになった。また、女性議員や都政野党所属議員は、店頭での生体販売に反対し、東京都が達成したとする「殺処分ゼロ」を評価しない傾向があることから、これらの議員はより厳しい基準で殺処分問題に取り組む可能性が高いことを指摘している。
- 「東京一極集中を問題視する東京都議会議員とはどんな議員なのか 」
本稿の問題意識は、東京一極集中による地方人口の減少問題、ひいては日本全体における経済活動への影響をどのように是正するかにある。はたして、日本の人口が集中して流入する東京都の政治家は、この一極集中問題をどのようにとらえているのだろうか。調査結果は、都議全体としては、東京一極集中をあまり問題視せず、東京都が東京一極集中問題に関与することに関してはやや消極的ではあるとう傾向を示している。一方で、散らばりは大きく、個々の議員が様々な意見をもっていることも示している。本稿は、地方圏出身の議員であるほど、東京一極集中問題を是正する意思があるという仮説を立てるが、分析の結果、仮説は否定される。言い換えれば、東京一極集中問題を解決すべき課題であると認識する都議会議員は、地方圏出身者のみではなく、東京圏出身者にも存在することが言え、東京一極集中問題が出身に関わらず日本社会の課題として認識されていることを示唆する。
- 「都議会議員から見た東京都の新型コロナウイルス対策及び財政調整基金に対する見通し」
新型コロナウイルスへの対応として、東京都は2020年度全7回にわたって感染拡大防止協力金の支給を行ってきた。さらに毎日行われる小池都知事の会見、2020年3月の感染症対策サイトの開設、それに先立つ2020年1月の東京都議会災害対策連絡調整本部設置など様々な対策を講じてきた。東京都議会議員はこれらの取り組みをどう評価しているだろうか。分析の結果、都議会議員全体として東京都のコロナ対策を評価する傾向にあり、特に小池都知事の支持勢力である都民ファーストの会と公明党所属議員が東京都の総合的なコロナ対策を高く評価する傾向がある。また、都議会議員のコロナ対策への評価は、特に都議会災害対策連絡調整本部の評価によって決定される。つまり、議員は自らが所属するグループ(会派・議会)の施策を基準に政策評価を行っている。さらに、東京都の財政調整基金の今後の見通しについては議員の過去の経歴や所属会派によって左右されないことも明らかにした。
- 「コロナ禍における経済状況・政府の経済政策に対する東京都議会議員の評価」
本稿は、コロナ禍における政府の経済政策の地方議員による評価に着目する。分析の結果、特別定額給付金やGoToキャンペーンを高く評価するのは国政与党所属議員のみであり、逆に都政与党や国政野党所属議員はこれらの政策に否定的であり、経済活動の復活にも悲観的であることが明らかになった。また、東京オリンピック・パラリンピックの開催については、国政与党と都政与党の議員が期待を寄せるものの、全体的に肯定的な意見が少なかったことから、まずは新型コロナウイルスの感染拡大を抑えることを第一に考える議員が多いことを示唆している。
- 「都議会における性差別問題の改善状況と影響する要因」
世界的な観点からみると、日本では女性の政治進出が遅れている。本稿は、都議会を題材とし、2018年から2020年の間で都議会における性差別問題に対する意識はどのくらい変化したか、また性差別問題に対する議員の態度は会派・年齢・性別によって差があるのかを問う。調査の結果、2018年よりは2020年の方が、都議会における性差別問題を意識する議員が増えていることが指摘できる。また、分析の結果、性別による不公平さの意識やクォータ制など女性の活躍を推進する政策に対して、会派や年齢そして性別のいずれも有意な影響を与えていないことが明らかとなった。都議会において性差別問題は、会派や年齢そして性別を超えて共有されていると言うことができよう。
- 「所属する政党に対して抱くイデオロギーラベルが及ぼす政策への影響」
本稿は、新型コロナウイルスの影響で論議された9月入学が結局導入されなかったことを出発点とし、制度の大規模な変更を好まない保守的な対応はどのような議員に多いのかを明らかにすることを試みる。分析の結果、政治的立場(イデオロギー)と所属する会派・政党には関係があり、特に都民ファーストの会と共産党はそれぞれの立場が明確に分かれていることが言え、都民ファーストの会所属議員は「9月入学」への反対「関東大震災朝鮮人犠牲者への追悼の辞廃止」に賛成など保守的な政治立場をとる傾向にある。また、事実婚制度への賛否に関しては議員の性別による影響があり、男性議員がより保守的な立場をとることが明らかになった。議員の年齢はイデオロギーに影響を与えておらず、政治的立場や政治的思考は所属する会派・政党と深い関係にあることが指摘できる。
- 「新型コロナウイルス流行時における2021年東京オリンピック開催に対する議員の意見を形成する要因について」
2021年2月現在、2020東京オリンピック・パラリンピックは開催の詳細が未定である。都議会議員はどのように考えているだろうか。本稿は、2020年4月から5月の緊急事態宣言中における都議会議員のTwitterとブログの内容に男女差があることに着目し、東京オリンピック・パラリンピックの開催への前向き具合と性別・年齢・当選回数は相関があるという仮説をたてる。分析の結果、会派所属やイデオロギーをコントロールした状態で、経済効果に期待するほと、また男性、年齢が上であるほど開催に前向きであることが明らかになった。基本的に議員の政策に対する態度の決定要因はほぼ会派であり、社会的属性による差は見られないことが多いが、東京オリンピック・パラリンピック開催への期待度に関しては性別と年齢による態度の違いが見られる。
- 「都議会議員とオンライン活動の関係性」
新型コロナウイルス感染症拡大を受けて、政治家もまたリモートワークつまりオンライン活動を余儀なくされている。本稿は、都議会議員のオンライン活動に着目し、どのような議員がオンライン活動を積極的に行うのかを明らかにすることを試みる。先行研究から、女性、年齢が若い議員ほどオンライン活動を積極的に行うという仮説をたてる。分析の結果、確かに2018年の段階では男性よりは女性、そして年齢が若いほど、政治活動におけるオンライン活動を重視する傾向にあるが、2020年においてはオンライン活動の考え方に性差や年齢差はなく、また新型コロナウイルス感染症拡大前後でその属性の傾向に変化はないことが明らかとなった。
- 「東京都議会議員が考える民意の反映に影響を与える要因」
世論調査の結果によれば、有権者の6割が政治に民意は反映されていないと感じている。都議会議員自身はどのくらい民意が政治に反映されていると考えているだろうか。都議会議員は、分散が大きいものの、平均して5割程度は都政に民意が反映されていると考えている。また、国民の意見の反映については都民の意見の反映よりも低く評価する傾向がある。さらに分析の結果、都知事に対する評価が高いほど、女性議員であるほど、専門が地域政策や財政分野であるほど、都民そして国民の意見は反映されていると考える傾向にある。また、専門が福祉分野である議員は、都民の意見は反映されていると考える傾向にあり、東京出身の議員は国政よりも都政のほうが民意は反映されていると考える傾向にある。本稿は、民意の反映について住民と議員の差が存在することを指摘すると同時に、民意が反映されていないことの原因をリーダー、議員、そして住民のどこにあると考えているかは議員によって異なることも指摘する。
- 「東京都議会議員のオンラインで有権者と関わる活動量とSNSの利用に関する関連性」
本稿は、世界的パンデミックの時代において都議会議員のオンライン活動に対する意識や有効性感覚を分析する。分析の結果、議員のオンライン活動に対する積極性は年齢によっては説明されないことが明らかになった。また、SNSを通じて若者の政治的関心が高まったという政治家側の有効性感覚と今後のオンライン活動の展開に相関は見られず、若い有権者のSNSによる反応を感受した議員ほど今後のSNS利用頻度も高くなるという仮説は支持されない。したがって、政治家のSNS利用の動機についてはさらに研究が必要であることが指摘される。