2021年度中條2年セミナー
「2021年度 東京都議会議員の政治的態度と行動調査」分析結果
学生論文
- 「新型コロナウイルスに対する都議会議員の意識は社会的属性による違いがあるのか」
本稿は、2021年夏の4回目の緊急事態宣言において、東京都における医療危機の捉え方と東京都の行動・営業制限要請による経済的影響をどのように考えるかを分析する。まず、医療危機については、年齢が若い議員ほど、23区外選出議員ほど、危機的状況にあると回答する傾向があり、会派や性別においては違いがない。次に、経済的影響に関しては、東京都による多くの要請に対してほとんどの議員が経済的影響は「深刻であるが回復可能」と回答するものの、職場のテレワーク活用要請については、都民ファーストの会所属議員のみが他会派所属議員に比べて経済に与える影響が小さいと考える傾向がある。本稿が示唆するところは、政治家にとって新型コロナウイルス対策は、少なくとも2021年夏の段階では「医療か経済か」という二択ではないことではないだろうか。
- 「都議会議員の属性と東京都の新型コロナウイルスに関する政策への評価の関係について」
本稿も同じく、東京都の新型コロナウイルス対策に関する政策の評価は議員の属性によって左右されるという仮説を検証する。性別や年齢といった属性と政策評価に関連は見られないが、所属会派と政策評価にはやはり関連が見られる。具体的には、東京都の新型コロナウイルス対策に関しては、都民ファーストの会に加えて公明党議員も評価する傾向があるが、その対策による経済的影響の深刻度は都民ファーストの会所属議員のみ若干楽観視していた傾向があることが示されている。
- 「東京都議会議員の防災意識について」
東京都における地震災害対策への危機感を「首都直下型地震において東京都の対策は十分であるか」への回答で測定する。不十分であると認識する議員は共産党所属議員に有意に多く、その他の会派に属する議員に関しては知事与党であろうと知事野党であろうと統計的な有意差がない。また、性別や選挙区(23区か否か)は災害対策の認識に影響を与えていない。したがって、本稿は東京都の防災対策における共産党会派の際立った特徴を明らかにしたと言えるだろう。
- 「育休と都議会議員の関係」
本稿は、都議会議員の育休に対する考え方に焦点をあて、以下の点を明らかにした。第一に、育休に対する賛成割合は選挙前調査の方が明らかに高い。同じ質問と選択肢を使用した選挙後の調査では育休への賛成割合が大きく下がる。第二に、育休取得に対する賛成割合は選挙前でも選挙後でも女性議員の方が高い傾向にあるが、その他の属性(年齢や会派)では違いが見られない。本稿も指摘するように、育休に関する考え方は質問や選択肢によっても大きく変わり、回答することが難しく、つまり測定することが難しい。しかしながら、本稿の発見した2点、選挙前後での回答の変化と育休の考え方における性差は、今後の調査手法や政治家の育休そのものについて考えていくヒントとなるのではないだろうか。
- 「東京都議会議員の所属会派の方針による制限の感じ方について」
議員は議会において会派や政党を結成し、集団として行動する。本稿はこの会派による制限を議員がどのように感じているかという新しい切り口で検証する。分析の結果、共産党議員は会派の縛りを感じない傾向がある一方で、公明党・都民ファースト・立憲民主党所属議員は共産党議員と比較すると会派の縛りを感じる傾向がある。また、会派の縛りを感じる傾向は男性議員と若手議員にやや多く、イデオロギー的に中立よりの議員ほど縛りを感じる傾向がある。会派の縛りの感じ方とは組織の集権性をあらわす指標でもある。本稿によって、共産党の高い集権性が明らかになるとともに、男性議員や若手議員が多いと分権的な組織となる傾向が示唆されるのではないだろうか。
- 「SNS利用と都議会議員の関係」
若年層から見ると政治家はSNSを使いこなしている印象がない。本稿は代表的なSNS(Twitter, Instagram, Facebook, YouTube)に焦点をあてて都議会議員の利用状況を分析する。その結果、Instagramは若い議員、Facebookは年齢が高い議員に利用される傾向があること、Instagramに関しては、都民ファーストの会や立憲民主党など比較的新しい政党所属議員で利用率が高いこと、YouTubeを利用している議員は特にYouTubeに多大なコストをかけているわけではないことを指摘する。Instagramは比較的若年層で利用されているSNSであり、比較的新しい政党は新規参入有権者の獲得に力を入れていることがうかがえる。一方で、投稿されるInstagramの多くが文字情報のスクリーンショットであり、またYouTubeを議員自らが使いこなしているわけではない可能性から、政治家はSNSを用いて新規有権者を獲得しようとするものの、有効活用できていないのではないかと結ぶ。
- 「投票率に対する都議会議員の意識調査」
投票率は「低さ」や「若者の棄権」が話題になることが多いが、選出される立場である都議会議員は投票率に対してどのような意見を持っているのか。2021年都議選における年代別・性別投票率の表から、議員にどこが気になるか指摘をしてもらうことで測定した。その結果、全体投票率に問題意識があるグループと20代の投票率に問題意識があるグループの2つに大別でき、前者は女性議員にやや多く、後者は男性議員に多い傾向がある。この傾向は会派をコントロールしても見られ、また年齢による違いはない。投票率に対する考え方に性差が出るという意外な結果を受け、今後も研究を続けたいところである。
- 「持続可能社会実現に向けた政策決定者のエネルギー選好分析」(日本エネルギー学会100周年記念論文最優秀賞<大学・大学院生部門>)
本論文は、東京都議会議員に2030年目標での電源構成と理想目標としての電源構成について調査し、火力・原子力・再生可能エネルギーの間でどのようなバランスを取るべきと政策決定者が考えているかを分析する。分析の結果、2030年目標では火力中心と原子力中心と再生可能エネルギー中心という3つのグループにわかれ政治的立場による違いがある一方で、理想目標では火力・原子力中心と再生可能エネルギー中心という2つのグループに分けられることが明らかになった。つまり、政策決定者の中で最終的な目標としては再生可能エネルギーへという合意が見られるグループでは、そこに至る経路としては(1)暫定的に原子力エネルギーを用いる、(2)早い段階で再生可能エネルギーを用いる、といった政治的立場による差異が指摘できる。