2022年度中條2年セミナー
「2022年度 東京都議会議員の政治的態度と行動調査」分析結果
学生論文
- 「属性による議員の政治的意見と所属会派の政治的意見の一致度に違いはあるのか」
基本的に会派や政党とは政治的理念をもとに集合する団体であるが、構成員は必ずしも全てにおいて意見を一致させているわけではない。政党組織の一体性や凝集性は組織ごとに異なるし、構成員の意識はその属性に影響されるだろう。実際、会派ごとの政治的意見一致度(100%)は、共産党の98%から都民ファーストの会の86%までばらつきがある。会派内の標準偏差は自民党が最も大きくばらつきがあり、共産党はばらつきが小さい。つまり、共産党は凝集性が非常に高く、自民党や都民ファーストの会は凝集性が比較的低めの団体であると言える。
- 「都議会議員における防災対策の満足度と属性の関係」
首都直下地震やゲリラ豪雨など東京都は災害に対するリスクを多く抱えている。東京都の防災対策の満足度とその予算に対する満足度に関しては、2期目を迎えた知事与党である都民ファーストの会に所属する議員は他会派に所属する議員と比較して高い。与野党会派の所属をコントロールすると、議員経験量を意味する当選回数や政治的イデオロギーは政策満足度に対して影響を与えない。
- 「議員の尊敬する政治家に対する評価は何で決まるのか」
多くの政治家は目指すべき姿として「尊敬する政治家」像を持っている。それは身近な関係者であったり、外国の政治家、歴史上の人物であったりする。調査結果では、理想の政治家として日本の政治家を挙げたのは85%、現役政治家を挙げたのは62%であった。その違いは、会派やイデオロギー等の属性によって決まるわけではなかった。また、当然ながら、安倍晋三や山口那津男といった政党リーダーを理想の政治家として挙げるのは、その所属政党の構成員である。
- 「地方政治家の所属政党加入の動機とその要因」
政治家が政党に加入する動機はそのイデオロギーを基本とする。一方で、選挙での当選のしやすさ、つまり再選インセンティブによって政党所属を決定する議員もいるだろう。所属政党(会派)に加入動機としてどの会派も「自身の思想と一致しているから」が最も多いが、「やりたい活動が可能になるから」を動機とする議員の割合が比較的多いのは都民ファーストの会であった。また、共産党所属議員は自身の会派との意見の一致度が全会派の中で最も高く、都民ファーストの会の所属議員は2021年都議会議員選挙での得票率が有意に高い。したがって、共産党のようにイデオロギーを中心として結集する政党のみならず、都民ファーストの会のように当選も目的の1つとして結集する政党が存在すると言えるだろう。
- 「都議会における審議時間帯について」
地方議員のなり手不足問題の原因の1つとして挙げられるのが議会の審議時間帯である。東京都議会では深夜に議会が終了することがあり、議員のみならず都庁職員にとっても大きな負担となっている。実際、回答した議員の94%がこの状態を「変えるべき」であると認識しており、様々な理由を鑑みて「現状が最善」と回答した議員は4名のみであった(全て男性、多摩地区選出)。しかしながら、現在の審議時間帯を変えるべきであるか否かという態度を、所属会派や性別、婚姻の有無や子どもの有無などといった議員の属性によって説明することはできなかった。つまり、審議時間帯の問題は単純に解決できない、複雑なものであることを意味するだろう。1点、議員に対する負担を理由として審議時間帯の変更を訴える属性として、「当選回数の低さ」が挙げられる。当選回数が多いほど現状の労働環境に慣れてしまっているのかもしれない。
- 「都議会議員の同性婚における賛否について」
東京都は2022年11月より「東京都パートナーシップ制度」を導入した。さらに進んで国の施策として進めることに対して都議会議員はどのように思っているのだろうか。分析の結果、パートナーシップ制度の法制化に賛成か反対かを分けるのは会派、特に自民党会派か否かであった。都知事与党である都民ファーストの会、国政野党である共産党や立憲民主党のみならず、国政与党である公明党もパートナーシップ制度の法制化に賛成の立場をとっており、賛成度4段階中平均が3以上である一方で、自民党のみが4段階中の平均が0.82と低い。
- 「都議会における各政党と宗教との関わりのイメージについて」
2022年後半は宗教と政党の関係に焦点があてられた時期であった。宗教と政治は無関係ではなく、日本では信教の自由も保障されている。政治の現場、議員たちは各政党と宗教との関わりにどのようなイメージを持っているだろうか。調査の結果、自民党議員は自分たちの政党の宗教との関わり度合いを10段階中の5であるとしているが、他会派からは8のイメージをもたれている。公明党は9、立憲民主党は5、共産党は1であり、これ3政党は自他による認識の差がない。都民ファーストの会は自らの宗教との関わりイメージを平均2としているが、他会派からは若干高めの4であるというイメージを持たれている。宗教団体は利益団体として政治に関わることが多い。与党は他政党から宗教との関わりイメージを持たれやすい、もしくは、宗教との関わりの自覚がないのどちらかである。
- 「東京都議会議員におけるSNSでの選挙活動が及ぼす効果について」
SNSは有効に活用することで政治活動や選挙活動が効率よくなる可能性がある。都議会議員の9割以上はTwitterとFacebookを利用しており、半数がInstagramやYouTubeを利用しているが、更新度合は1日に複数回から数週間に1回とばらつきがある。このSNS利用頻度と2021年都議選得票率は直接的には関係がないものの、Instagram利用と得票率は統計的有意に関係がある。SNSを必要としない活動を展開する議員もいる一方で、Instagram利用によって得票率をあげている議員も存在することになる。特に、Instagramは若年層の利用が多いことから、今後ますます重要になるのではないか。
- 「太陽光パネル設置義務化に対する政策態度の決定要因」
東京都は2025年から新築一戸建て住宅に太陽光パネルの設置を義務化した。気候変動にも関わるこの政策に対し、知事与党である都民ファーストの会所属議員のみならず、共産党議員も太陽光パネル設置義務化にほぼ賛成を示している。所属委員会に関して言えば、所属会派をコントロールしても、環境・建設委員会所属議員は賛成の傾向がある。したがって、政策態度は会派所属によって決定するのみならず、所属委員会に関しても一定の傾向が見られる。関心があるから委員会に所属するのか、委員会に所属することによって関心が生まれるのかの分析は別の機会に委ねたい。
- 「都議会議員の属性が与える政策対象者への影響について」
議員は選挙区もしくは行政区全ての有権者に向き合っている。一方で、選挙戦略を考えると自分に票を投じてくれた・投じてくれそうな有権者を対象として政策を展開するという戦略もある。議員が取り組む政策の対象は、会派や性別、年齢、家族形態によって異なるのであろうか。調査結果から、政策対象を「全有権者」とした議員は都議会与党の都民ファーストの会、国政与党の自民党と公明党に多い。「子ども」「子育て世代」を対象として言及した議員は都民ファーストの会、共産党、公明党に多く、「高齢者」を対象として言及した議員は自民党に多い。しかしながら、政策対象の傾向が、会派や属性によって統計的に明確な差があるわけではなく、詳細な分析が必要である。
- 「政党の政策と公約実現度について」
議員が意識している政策対象は、その所属会派の方針と一致しているのだろうか。2021年都議選時の各政党の公約と比較すると、自民党は感染症対策と災害対応を重視、高齢者対象という点で一致しており、立憲民主党は格差解消を重視し、子どもと貧困層を対象とする点で一致、共産党も貧困格差解消という公約に対して、貧困層、女性、就労者を対象として言及している点で一致している。一方、公明党は公約で優先されていなかった「高齢者」に言及する議員が多く。都民ファーストの会は公約で優先されていなかった「子ども」に言及する議員が多い、という特徴がある。